『多読計画』断片

英語100万語多読の励みにしていた『多読計画』のサイトがなくなってしまったので、仕方なくはてなに来ました。地道に積み上げた読書記録で救えた記事はゼロ、下書きが7本残っているだけです。あー残念。これからまた少しずつ記事を増やすつもりです。・・・・といっても自分以外の人にとっては読む価値なしですが。

パイド・パイパー - 自由への越境 (創元推理文庫) 文庫 ネビル・シュート (著), 池 央耿 (翻訳)

第二次世界大戦の戦火が拡大する中で、イギリスの老紳士がフランス南部から祖国に戻る事を決意する。
小さな兄妹の送り届けを託されたものの、まさにその時、ドイツ軍がフランスに侵攻してくる、というストーリー。

<感想>
東山彰良『流』での戒厳令下の台北もそうだが、今とは全く異なる、想像できない環境が描かれた小説は大変興味深い。
そして、この当時のヨーロッパ人はドイツ軍のフランス侵攻といえば普仏戦争を思い起こす、というのが非常にリアルな感じがした。

イギリス人がドイツ軍に見つかれば捕まる、鉄道も車も使えない、子供のペースに合わせなければならない、
海岸地方まで遥かに遠く、しかもドーバー海峡を渡る船に乗れる保証はない。
どう考えても絶望的な状況であるが、それでもハワード老人はあせらずあきらめずに頑張る。
これがイギリス気質なのかどうかは分からないが、今のEU離脱の問題も含めてイギリス人というのは興味深い。

その他、印象に残った点は以下の通り。
・ニコルの「ジョンと知り合ったのはこのため」という考え方
・ロンドンのクラブ従業員の若者が、屋上に落ちた爆発前の爆弾を蹴落とす
・女性(おばさん)の会話で、慣れ親しんでよく知っているイギリスを感じ、やすらぎを覚える

子供達の後日の姿を描いた続編を読みたいと思った。

The Curious Incident of the Dog in the Night-time Mark Haddon

英語コーチの奥山さんから紹介して頂いた本。
まったく知らない本のつもりでいたら、買ったまま放置していた翻訳本を発見して驚いた。
読みやすい英語だったので、日本語版をチラ見することもなく読了できた。

主人公クリストファーの特徴は、他人や周りの環境に対する正直な反応だと思う。
特に、未来に希望を持てている時の前向きな生活態度と、持てていない時のフラストレーションの落差が大きい。
でもそれは振り返って考えてみると、自分にも同様に当てはまる事だと思った。
クリストファーほどストレートに反応しないというだけで。

自分自身もこれまでの生活が変わっていく年齢(55歳)なので、先々の生活に楽しみを持てるように心掛けていきたいと感じた。
そういう気付きを得られたことが、この本を読んでの収穫である。

クリストファーはシャーロック・ホームズのファンらしいのに、コナン・ドイルには批判的なのがおもしろい。
一つ一つの事柄に普通の人とは違う反応や意見を示すので、結末が見えない物語になっていて、最後まで楽しめた。

それからクリストファーは、苦しい状況の時にいつも、シボーン先生の言いつけを思い出して対応しようとしている。
そしてシボーン先生も、常に辛抱強く教え諭している。偉い。「red」の先生だと思う。
お父さん、お母さんもredなのだが、人間なので時々yellowになる。
とはいえお父さんの方は、yellowの度合いが強すぎるので、一緒に暮らすのは怖ろしいかも。

 

サマータイム・ブルース サラ・パレツキー 山本やよい訳

サラ・パレツキースー・グラフトンの、それぞれの女性探偵の話を読みたくなり、まずはこの本から。

V.I.ウォーショースキーの特徴
1.刑事コロンボのように、初対面で相手の不審な言動に気付き、疑問を持ち続ける
2.ディック・フランシス競馬シリーズの主人公のように、脅迫や買収や襲撃に屈しない
3.『依頼人』のレジーのように、依頼料1ドルで捜査

頭脳と不屈の意志と格闘能力に優れ、非常に有能で信頼できる探偵である。
そして同時に、非科学的で占いみたいな考え方になるが、ヴィクが持つ運の内の大部分が職業運で、残り少しを友人運と異性運が占め、結婚運や金銭運が入り込む余地は残っていないという印象を受ける。
元々そういう性分だし、運命として定められていて、変えようがない感じ。

シリーズ全体がこの調子で進んでいくなら、他人事ながら大変だなあと思う。
身体ももたないし、生活に行き詰まりそうでもある。

ロティについては、度胸は充分だがエキセントリックなわけではないように感じた。
短編集での、"ええ、あの害虫の脳みそを叩きつぶしてやったわ"というセリフは、やはりヴィクの発言であって、ロティ自身が言ったならもう少し上品になるような気がした。

The Big Sleep Oxford Bookworms Library

V.I.ウォーショースキーに続き、昔読んであまり馴染めなかったフィリップ・マーロウのGRを読んだ。
Word数15,960語の中に、よくこれだけの事件を詰め込んだなあというのが最初の感想で、Retoldした人は大変だったろうと思った。

脇役多数の中で、マーロウがその死を悼んだ'little man'(Harry Jones)と、行動理由が不明のMona Marsには、どういう人なのか興味を持った。今後原作(日本語訳)でチェックすることにする。

さて肝心のフィリップ・マーロウだが、それほど格好付けているわけでもなさそうで、少し印象が良い方に変わった。
このGRを読む限り、普通に探偵という仕事に集中している人、という感想を持った。

Sternwood姉妹の誘いを断ったのも当然で、ハードボイルドを気取っているからではなく、この姉妹が二人とも精神に問題ありのアブナイ人だからだし、且つ将軍の依頼遂行に差し支えるからだろう。

マーロウ作品の解説や評論は、ハードボイルドとか生き方とかを強調しがちのように思うので、読書を楽しむためにはかえって有害だと感じた。
ということで、それらは一旦忘れ、改めてこのシリーズを読んでみようと思った。
何しろ沢崎探偵を生んだ原尞がリスペクトしているチャンドラー作品なのだから。

Fear of Failure Parnell Hall

2019年5月10日、長年の懸案「Knock Down」を読み終え、16日にビートルズ・ストーリーを読了したところまでは絶好調だった。
ところが、18日に早稲田大学エクステンションセンターの浮世絵講座が始まり、すっかり浮世絵にハマり込んでしまった。
26日の演奏会に向けたピアノ練習もしなければならず、でも25日に駆け込みで千葉市美術館の浮世絵展に行ったりして、バタバタとした日々を送ることになった。

そうこうしているうちに、100万語多読開始以来初めて、読書の意欲が全然湧かなくなってしまった。
日本語の本ですらほとんど読まないという、一人活字離れ現象。
サラ・パレツキーの長編を一旦諦め、イヴァノヴィッチの中編も読む気にならず、GRの『高慢と偏見』も続かず、別のGRを本屋に探しに行く気にもならない。

仕方がないので、昔好きだったパーネル・ホールの短編に救いを求め、何とか読み終えた。
パーネル・ホールのスタンリー・ヘイスティングスシリーズ、まだ続いていたんだなあ。
もはやハヤカワミステリ文庫に新作が訳されて並ぶこともなくなってしまっているのだが。

短編のせいか、昔読んだ長編ほど笑える箇所は盛り込まれていないが、それなりに楽しめた。
なるほど、そういう理由で人を殺すこともあるのね。人間というのは厄介な存在だなあ、というのが今回一番の感想。

さて、次はどの本にしよう。候補が思い浮かばない。困ったなあ。